正岡子規へ送りたる句稿 その三十四



句稿 三十四  〔五十一句〕

明治三十二年九月五日(火)

1659 馬渡す舟を呼びけり黍の間
1660 堅き梨に鈍き刃物を添てけり

1661 馬の子と牛の子と居る野菊かな
1662 温泉湧く谷の底より初嵐
1663 重ぬべき単衣も持たず肌寒し
1664 谷底の湯槽を出るやうそ寒み
1665 山里や今宵秋立つ水の音
1666 鶏頭の色づかであり温泉の流
1667 草山に馬放ちけり秋の空
1668 女郎花馬糞について上りけり
1669 女郎花土橋を二つ渡りけり
1670 囲ひあらで湯槽に逼る狭霧かな

1671 湯槽から四方を見るや稲の花
1672 鑓水の音たのもしや女郎花
1673 帰らんとして帰らぬ様や濡れ燕
1674 雪隠の窓から見るや秋の山
1675 北側は杉の木立や秋の山
1676 終日や尾の上離れぬ秋の雲
1677 蓼痩せて辛くもあらず温泉の流
1678 白萩の露をこぼすや温泉の流
1679 草刈の籃の中より野菊かな
1680 白露や研ぎすましたる鎌の色

1681 葉鶏頭団子の串を削りけり
1682 秋の川真白な石を拾ひけり
1683 秋雨や杉の枯葉をくべる音
1684 秋雨や蕎麦をゆでたる湯の臭ひ
1685 朝寒み白木の宮に詣でけり
1686 秋風や梵字を刻す五輪塔
1687 鳥も飛ばず二百十日の鳴子かな
1688 灰に濡れて立つや薄と萩の中
1689 行けど萩行けど薄の原広し
1690 語り出す祭文は何宵の秋

1691 野菊一輪手帳の中に挟みけり
1692 路岐して何れか是なるわれもかう
1693 七夕の女竹を伐るや裏の藪
1694 顔洗ふ盥に立つや秋の影
1695 柄杓もて水瓶洗ふ音や秋
1696 釣瓶きれて井戸を覗くや今朝の秋
1697 秋立つや眼鏡して見る三世相
1698 喪を秘して軍を返すや星月夜
1699 秋暑し癒なんとして胃の病
1700 聞かばやと思ふ砧を打ち出しぬ

1701 秋茄子髭ある人に嫁ぎけり
1702 湖を前に関所の秋早し
1703 初秋の隣に住むや池の坊
1704 荒壁に軸落ちつかず秋の風
1705 唐茄子の蔓の長さよ隣から
1706 端居して秋近き夜や空を見る
1707 顔にふるゝ芭蕉涼しや籐の寝椅子
1708 涼しさや石握り見る掌
1709 時くれば燕もやがて帰るなり

    九月五日       漱石拝



熊本市内坪井町七十八番地 夏目金之助より
下谷区上根岸町八十二番地 正岡常規へ



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