正岡子規へ送りたる句稿 その三十二



句稿 三十二  〔七十五句〕

明治三十二年一月

1431 金泥の鶴や朱塗の屠蘇の盃
1432 宇佐に行くや佳き日を選む初暦
1433 梅の神に如何なる恋や祈るらん
1434 うつくしき蜑の頭や春の鯛
1435 蕭条たる古駅に入るや春の夕
1436 兀として鳥居立ちけり冬木立
1437 神苑に鶴放ちけり梅の花
1438 ぬかづいて曰く正月二日なり
1439 松の苔鶴痩せながら神の春
1440 南無弓矢八幡殿に御慶かな

1441 神かけて祈る恋なし宇佐の春
1442 呉橋や若菜を洗ふ寄藻川
1443 灰色の空低れかゝる枯野哉
1444 無提灯で枯野を通る寒哉
1445 石標や残る一株の枯芒
1446 枯芒北に向つて靡きけり
1447 遠く見る枯野の中の烟かな
1448 暗がりに雑巾を踏む寒哉
1449 冬ざれや狢をつるす軒の下
1450 凩や岩に取りつく羅漢路

1451 巌窟の羅漢共こそ寒からめ
1452 釣鐘に雲氷るべく山高し
1453 凩の鐘楼危ふし巌の角
1454 梯して上る大盤石の氷かな
1455 巌頭に本堂くらき寒かな
1456 絶壁に木枯あたるひゞきかな
1457 雛僧の只風呂吹と答へけり
1458 かしこしや未来を霜の笹結び
1459 二世かけて結ぶちぎりや雪の笹
1460 短かくて毛布つぎ足す蒲団かな

1461 泊り合す旅商人の寒がるよ
1462 寐まらんとすれど衾の薄くして
1463 頭巾着たる猟師に逢ひぬ谷深み
1464 はたと逢ふ夜興引ならん岩の角
1465 谷深み杉を流すや冬の川
1466 冬木流す人は猿の如くなり
1467 帽頭や思ひがけなき岩の雪
1468 石の山凩に吹かれ裸なり
1469 凩のまがりくねつて響きけり
1470 凩の吹くべき松も生えざりき

1471 年々や凩吹て尖る山
1472 凩の峰は剣の如くなり
1473 恐ろしき岩の色なり玉霰
1474 只寒し天狭くして水青く
1475 目ともいはず口ともいはず吹雪哉
1476 ばりばりと氷踏みけり谷の道
1477 道端や氷りつきたる高箒
1478 たまさかに据風呂焚くや冬の雨
1479 せぐゝまる蒲団の中や夜もすがら
1480 薄蒲団なえし毛脛を擦りけり

1481 僧に似たるが宿り合せぬ雪今宵
1482 雪ちらちら峠にかかる合羽かな
1483 払へども払へどもわが袖の雪
1484 かたかりき鞋喰ひ込む足袋の股
1485 隧道の口に大なる氷柱かな
1486 吹きまくる雪の下なり日田の町
1487 炭を積む馬の脊に降る雪まだら
1488 漸くに又起きあがる吹雪かな
1489 詩僧死して只凩の里なりき
1490 蓆帆の早瀬を上る霰かな

1491 奔湍に霰ふり込む根笹かな
1492 つるぎ洗ふ武夫もなし玉霰
1493 新道は一直線の寒さかな
1494 棒鼻より三里と答ふ吹雪哉
1495 なつかしむ衾に聞くや馬の鈴
1496 親方と呼びかけられし毛布哉
1497 餅搗や明星光る杵の先
1498 行く年の左したる思慮もなかりけり
1499 染め直す古服もなし年の暮
1500 やかましき姑健なり年の暮

1501 ニッケルの時計とまりぬ寒き夜半
1502 元日の富士に逢ひけり馬の上
1503 蓬莱に初日さし込む書院哉
1504 光琳の屏風に咲くや福寿草
1505 眸に入る富士大いなり春の楼

  正
 つまらぬ句ばかりに候。然し紀行の代わりとして御覧
被下たし。冀くは大兄病中烟霞の癖万分の一を慰す
るに足らんか。



熊本市内坪井町七十八番地 夏目金之助より
下谷区上根岸町八十二番地 正岡常規へ



前へ  次へ


Copyright(C) まさじ (Masaji) 2009-

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック