正岡子規へ送りたる句稿 その二十六



句稿 二十六  〔三十九句〕

明治三十年十月

1262 樽柿の渋き昔しを忘るゝな
1263 渋柿やあかの他人であるからは
1264 萩に伏し薄にみだれ故里は
1265 粟折つて穂ながら呉るゝ籠の鳥
1266 蟷螂の何を以てか立腹す
1267 こおろぎのふと鳴き出しぬ鳴きやみぬ
1268 うつらうつら聞き初めしより秋の風
1269 秋風や棚に上げたる古かばん
1270 明月や無筆なれども酒は呑む

1271 明月や御楽に御座る殿御達
1272 明月に今年も旅で逢ひ申す
1273 真夜中は淋しからうに御月様
1274 明月や拙者も無事で此通り
1275 こおろぎよ秋ぢゃ鳴かうが鳴くまいが
1276 秋の暮一人旅とて嫌はるゝ
1277 梁上の君子と語る夜寒かな
1278 これ見よと云はぬ許りに月が出る
1279 朝寒の冷水浴を難んずる
1280 月に行く漱石妻を忘れたり

1281 朝寒の膳に向へば焦げし飯
1282 長き夜を平気な人と合宿す
1283 うそ寒み大めしを食ふ旅客あり
1284 吏と農と夜寒の汽車に語るらく
1285 月さして風呂場へ出たり平家蟹
1286 恐る恐る芭蕉に乗つて雨蛙
1287 某は案山子にて候雀どの
1288 鶏頭の陽気に秋を観ずらん
1289 明月に夜逃せうとて延ばしたる
1290 鳴子引くは只退窟で困る故

1291 芭蕉ならん思ひがけなく戸を打つば
1292 刺さずんば已まずと誓ふ秋の蚊や
1293 秋の蚊と夢油断ばしし給ふな
1294 嫁し去つてなれぬ砧に急がしき
1295 長き夜を煎餅につく鼠かな
1296 野分して蟷螂を窓に吹き入るゝ
1297 豆柿の小くとも数で勝つ気よな
1298 北側を稲妻焼くや黒き雲
1299 余念なくぶらさがるなり烏瓜
1300 蛛落ちて畳に音す秋の灯細し

    明治三十年十月     漱石拝



熊本県飽託郡大江村四百一番地 夏目金之助より
下谷区上根岸町八十二番地 正岡常規へ



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