正岡子規へ送りたる句稿 その二十五



句稿 二十五  〔六十一句〕

明治三十年五月二十八日(金)

1157 行く春を剃り落したる眉青し
1158 行く春を沈香亭の牡丹哉
1159 春の夜や局をさがる衣の音
1160 春雨の夜すがら物を思はする

1161 埒もなく禅師肥たり更衣
1162 よき人のわざとがましや更衣
1163 更衣て弟の脛何ぞ太き
1164 埋もれて若葉の中や水の音
1165 影多き梧桐に据る床几かな
1166 郭公茶の間へまかる通夜の人
1167 蹴付たる讐の枕や子規
1168 辻君に袖牽れけり子規
1169 扛げ兼て妹が手細し鮓の石
1170 小賢しき犬吠付や更衣

1171 七筋を心利きたる鵜匠哉
1172 漢方や柑子花さく門構
1173 若葉して半簾の雨に臥したる
1174 妾宅や牡丹に会す琴の弟子
1175 世はいづれ棕櫚の花さへ穂に出でつ
1176 立て懸て蛍這ひけり草箒
1177 若葉して縁切榎切られたる
1178 でゞ虫の角ふり立てゝ井戸の端
1179 溜池に蛙闘ふ卯月かな
1180 虚無僧に犬吠えかゝる桐の花

1181 筍や思ひがけなき垣根より
1182 若竹や名も知らぬ人の墓の傍
1183 若竹の夕に入て動きけり
1184 鞭鳴す馬車の埃や麦の秋
1185 渡らんとして谷に橋なし閑古鳥
1186 折り添て文にも書かず杜若
1187 八重にして芥子の赤きぞ恨みなる
1188 傘さして後向なり杜若
1189 蘭湯に浴すと書て詩人なり
1190 すゝめたる鮓を皆迄参りたり

1191 鮓桶の乾かで臭し蝸牛
1192 生臭き鮓を食ふや佐野の人
1193 粽食ふ夜汽車や膳所の小商人
1194 蝙蝠や賊の酒呑む古館
1195 不出来なる粽と申しおこすなる
1196 五月雨や小袖をほどく酒のしみ
1197 五月雨の壁落しけり枕元
1198 五月雨や四つ手繕ふ旧士族
1199 目を病んで灯ともさぬ夜や五月雨
1200 馬の蠅牛の蠅来る宿屋かな

1201 逃がすまじき蚤の行衛や子規
1202 蚤を逸し赤き毛布に恨みあり
1203 蚊にあけて口許りなり蟇の面
1204 鳴きもせでぐさと刺す蚊や田原坂
1205 夏来ぬとまた長鋏を弾ずらく
1206 藪近し椽の下より筍が
1207 寐苦しき門を夜すがら水鶏かな
1208 若葉して手のひらほどの山の寺
1209 菜種打つ向ひ合せや夫婦同志
1210 菊地路や麦を刈るなる旧四月

1211 麦を刈るあとを頻りに燕かな
1212 文与可や筍を食ひ竹を画く
1213 五月雨の弓張らんとすればくるひたる
1214 立て見たり寐て見たり又酒を煮たり

    五月二十八日      漱石

   [封筒の裏に]
1215 水攻の城落ちんとす五月雨
1216 大手より源氏寄せたり青嵐
1217 水涸れて城将降る雲の峰



熊本市合羽町二百三十七番地 夏目金之助より
下谷区上根岸町八十二番地 正岡常規へ



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