正岡子規へ送りたる句稿 その二十三



句稿 二十三  〔四十句〕

明治三十年二月

1061 酒苦く蒲団薄くて寐られぬ夜
1062 ひたひたと藻草刈るなり春の水
1063 岩を廻る水に浅きを恨む春
1064 散るを急ぎ桜に着んと縫ふ小袖
1065 出代の夫婦別れて来りけり
1066 人に死し鶴に生れて冴返る
1067 隻手此比良目生捕る汐干よな
1068 恐らくば東風に風ひくべき薄着
1069 寒山か拾得か蜂に螫されしは
1070 ふるひ寄せて白魚崩れん許りなり

1071 落ちさまに虻を伏せたる椿哉
1072 貪りて鶯続け様に鳴く
1073 のら猫の山寺に来て恋をしつ
1074 ぶつぶつと大な田螺の不平哉
1075 菜の花や城代二万五千石
1076 明天子上にある野の長閑なる
1077 大纛や霞の中を行く車
1078 烈士剣を磨して陽炎むらむらと立つ
1079 柳あり江あり南画に似たる吾
1080 或夜夢に雛娶りけり白い酒

1081 霞みけり物見の松に熊坂が
1082 酢熟して三聖顰す桃の花
1083 川を隔て散点す牛霞みけり
1084 薫ずるは大内といふ香や春
1085 姉様に参らす桃の押絵かな
1086 よき敵ぞ梅の指物するは誰
1087 朧夜や顔に似合ぬ恋もあらん
1088 住吉の絵巻を写し了る春
1089 春は物の句になり易し古短冊
1090 山の上に敵の赤旗霞みけり

1091 木瓜咲くや漱石拙を守るべく
1092 滝に乙鳥突き当らんとしては返る
1093 なある程是は大きな涅槃像
1094 春の夜を兼好緇衣に恨みあり
1095 暖に乗じ一挙虱をみなごろしにす
1096 達磨傲然として風に嘯く鳳巾
1097 疝は御大事余寒烈しく候へば
1098 菫程な小さき人に生れたし
1099 前垂の赤きに包む土筆かな
1100 水に映る藤紫に鯉緋なり

    明治三十年二月    漱石



熊本市合羽町二百三十七番地 夏目金之助より
下谷区上根岸町八十二番地 正岡常規へ



前へ  次へ


Copyright(C) まさじ (Masaji) 2009-

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック