正岡子規へ送りたる句稿 その二十一



句稿 二十一  〔六十二句〕

明治二十九年十二月

969 凩や海に夕日を吹き落す
970 吾栽し竹に時雨を聴く夜哉

971 ぱちぱちと枯葉焚くなり薬師堂
972 浪人の寒菊咲きぬ具足櫃
973 謡ふべき程は時雨つ羅生門
974 折り焚きて時雨に弾かん琵琶もなし
975 銀屏を後ろにしたり水仙花
976 水仙や主人唐めく秦の姓
977 水仙や根岸に住んで薄氷
978 村長の羽織短かき寒哉
979 革羽織古めかしたる寒かな
980 凩の松はねぢれつ岡の上

981 野を行けば寒がる吾を風が吹く
982 策つて凩の中に馬のり入るゝ
983 夕日逐ふ乗合馬車の寒かな
984 雪ながら書院あけたる牡丹哉
985 堅炭の形ちくづさぬ行衛哉
986 雑炊や古き茶碗に冬籠
987 鼓うつや能楽堂の秋の水
988 重なるは親子か雨に鳴く鶉
989 底見ゆる一枚岩や秋の水
990 行年を家賃上げたり麹町

991 行年を妻炊ぎけり粟の飯
992 器械湯の石炭臭しむら時雨
993 酔て叩く門や師走の月の影
994 貧にして住持去るなり石蕗の花
995 博徒市に闘ふあとや二更の冬の月
996 しぐれ候程の宿につきて候 (原句 しぐれ候程の宿につきて候程に)
997 累々と徳孤ならずの蜜柑哉
998 同化して黄色にならう蜜柑畠
999 日あたりや熟柿の如き心地あり
1000 大将は五枚しころの寒さかな

1001 勢の蜀につらなる小春かな
1002 かきならす灰の中より木の葉哉
1003 汽車を逐て煙這行枯野哉
1004 紡績の笛が鳴るなり冬の雨
1005 がさがさと紙衣振へば霰かな
1006 挨拶や髷の中より出る霰
1007 かたまつて野武士落行枯野哉
1008 星飛ぶや枯野に動く椎の影
1009 鳥一つ吹き返さるゝ枯野かな
1010 さらさらと栗の落葉や鶪の声

1011 空家やつくばひ氷る石蕗の花
1012 飛石に客すべる音す石蕗の花
1013 吉良殿のうたれぬ江戸は雪の中
1014 覚めて見れば客眠りけり炉のわきに
1015 面白し雪の中より出る蘇鉄
1016 寐る門を初雪ぢやとて叩きけり
1017 雪になつて用なきわれに合羽あり
1018 僧俗の差し向ひたる火桶哉
1019 六波羅へ召れて寒き火桶哉
1020 物語る手創や古りし桐火桶

1021 生垣の上より語る小春かな
1022 小春半時野川を隔て語りけり
1023 居眠るや黄雀堂に入る小春
1024 家富んで窓に小春の日陰かな
1025 白旗の源氏や木曾の冬木立
1026 立籠る上田の城や冬木立
1027 枯残るは尾花なるべし一つ家
1028 時雨るゝは平家につらし五家荘
1029 藁葺をまづ時雨けり下根岸
1030 堂下潭あり潭裏影あり冬の月

   明治二十九年十二月   漱石拝



熊本市合羽町二百三十七番地 夏目金之助より
下谷区上根岸町八十二番地 正岡常規へ



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