正岡子規へ送りたる句稿 その七



句稿 七  〔六十九句〕

明治二十八年十一月二十二日(金)

319 我脊戸の蜜柑も今や神無月
320 達磨忌や達磨に似たる顔は誰

321 芭蕉忌や茶の花折つて奉る
322 本堂へ橋をかけたり石蕗の花
323 乳兄弟名乗り合たる榾火哉
324 かくて世を我から古りし紙衣哉
325 我死なば紙衣を誰に譲るべき
326 橋立の一筋長き小春かな
327 武蔵下総山なき国の小春哉
328 初雪や小路へ入る納豆売
329 御手洗を敲いて砕く氷かな
330 寒き夜や馬は頻りに羽目を蹴る

331 来ぬ殿に寐覚物うけ火燵かな
332 酒菰の泥に氷るや石蕗の花
333 古綿衣虱の多き小春哉
334 すさましや釣鐘撲つて飛ぶ霰
335 昨日しぐれ今日又しぐれ行く木曾路
336 鷹狩や時雨にあひし鷹のつら
337 辻の月座頭を照らす寒さ哉
338 枯柳緑なる頃妹逝けり
339 枯蓮を被むつて浮きし小鴨哉
340 京や如何に里は雪積む峰もあり

341 女の子発句を習ふ小春哉
342 ほのめかすその上如何に帰花
343 恋をする猫もあるべし帰花
344 一輪は命短かし帰花
345 吾も亦衣更へて見ん帰花
346 太刀一つ屑屋に売らん年の暮
347 志はかくあらましを年の暮
348 長松は蕎麦が好きなり煤払
349 むつかしや何もなき家の煤払
350 煤払承塵の槍を拭ひけり

351 懇ろに雑炊たくや小夜時雨
352 里神楽寒さにふるふ馬鹿の面
353 夜や更ん庭燎に寒き古社
354 客僧の獅噛付たる火鉢哉
355 冬の日や茶色の裏は紺の山
356 冬枯や夕陽多き黄檗寺
357 あまた度馬の嘶く吹雪哉
358 嵐して鷹のそれたる枯野哉
359 あら鷹の鶴蹴落すや雪の原
360 竹藪に雉子鳴き立つる鷹野哉

361 なき母の忌日と知るや網代守
362 静かなる殺生なるらし網代守
363 くさめして風引きつらん網代守
364 焚火して居眠りけりな網代守
365 賭にせん命は五文河豚汁
366 河豚汁や死んだ夢見る夜もあり
367 夕日寒く紫の雲崩れけり
368 亡骸に冷え尽したる煖甫哉
369 あんかうや孕み女の釣るし斬り
370 あんかうは釣るす魚なり縄簾

371 此頃は女にもあり薬喰
372 薬喰夫より餅に取りかゝる
373 落付や疝気も一夜薬喰
374 乾鮭と並ぶや壁の棕櫚箒
375 魚河岸や乾鮭洗ふ水の音
376 本来の面目如何雪達磨
377 仲仙道夜汽車に上る寒さ哉
378 西行の白状したる寒さ哉
379 温泉をぬるみ出るに出られぬ寒さ哉
380 本堂は十八間の寒さ哉

381 愚陀仏は主人の名なり冬籠
382 情けにはごと味噌贈れ冬籠
383 冬籠り小猫も無事で罷りある (原句 冬籠り今年も無事で罷りある)
384 すべりよさに頭出るなり紙衾 (原句 すべりよき頭の出たり紙衾)
385 両肩を襦袢につゝむ衾哉
386 合の宿御白い臭き衾哉
387 水仙に緞子は晴れの衾哉

 大政          愚陀拝



松山市二番町八番戸上野方 夏目漱石より
下谷区上根岸町八十二番地 正岡常規へ



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